ヨルガワンマンライヴ「帝都復興機関詞」着席チケット御予約満了

ヨルガワンマンライヴ「帝都復興機関詞」着席チケットは受付初日にて御予約満了となりました。

誠に有り難う御座いました。

多数の御予約を頂きました為、着席チケットに関しましては、大変申し訳有りませんが抽選とさせて頂きます。
立見チケットにはまだ若干の空席がございますが、お早めのご予約をお勧めいたします。

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・ご予約開始の初日以降は、メールの到着順での受付となります。
・受付後、チケットが確保出来た方には「入金のご案内」メールをお送りいたします。(10月24日以降)
・振込先のご案内は、「入金のご案内」メールをご確認下さい。

・ご入金締め切りは11月15日(月)ご入金は銀行振込のみとさせて頂きます。
・11月15日(月)までにご入金が確認出来なかった場合はキャンセルとさせていただきます。
・お客様のご都合による入金後のキャンセルおよび払戻しはいたしません。
・入金時の手数料は、お客様のご負担とさせていただきます。

・枚数制限: 1度のお申し込みにつき、4枚までとさせて頂きます。
・複数枚ご購入頂きました場合のお振込みは、一度にお済ませ下さい。

お申し込みフォーマットはこちら

お問い合わせフォームはこちら
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ヨルガワンマンライブ「帝都復興機関詞」お申し込みフォーマット

「帝都復興機関詞」みとせのりこ+弘田佳孝 ヨルガワンマンライブ
<お申し込みフォーマット>
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・郵便番号、ご住所:
・ご氏名:
(複数チケットをご希望の場合、代表者のお名前)

・メールアドレス:
・緊急のご連絡先(携帯電話番号など):
※未記載でも結構ですが、メールにてご連絡が取れなかった場合は対応いたしかねますので、記載頂くことをご推奨いたします。

・ご希望の席種【座席・立ち見席】(どちらかを削除して下さい)
・ご希望枚数 :
(1度のお申し込みにつき、4枚までとさせて頂きます)

・お申し込み頂いた席種のチケットが席数オーバーで抽選となり、選に漏れた場合、ご希望でない方のチケットが空いていましたら「座席 ⇔ 立ち見」の振り替えを希望されますか?
【はい・いいえ】(どちらかを削除して下さい)

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上記のフォーマットにご記入の上、お申し込みメールのご送付をお願いします。

メールの件名:【ヨルガワンマンライブ】チケット予約
お申し込み先 メールアドレス:yorlga@tts-products.co.jp

受付は、2010年10月20日(水)午前0時からとなります。
それ以前のお申し込みに付きましては、無効とさせて頂きます。
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※お客様の個人情報は、原則として、
当イベントに関する情報をご提供する目的のために利用致します。

※また下記の事項にご注意ください。
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・ご予約開始は2010年10月20日(水)午前0時から、メールでの受付となります。
・ご予約開始の初日24時間につきましては、申し込み多数の場合抽選とさせて頂きます。
・ご予約開始の初日以降は、メールの到着順での受付となります。
・受付後、チケットが確保出来た方には「入金のご案内」メールをお送りいたします。(10月24日以降)
・振込先のご案内は、「入金のご案内」メールをご確認下さい。

・ご入金締め切りは11月15日(月)ご入金は銀行振込のみとさせて頂きます。
・11月15日(月)までにご入金が確認出来なかった場合はキャンセルとさせていただきます。
・お客様のご都合による入金後のキャンセルおよび払戻しはいたしません。
・入金時の手数料は、お客様のご負担とさせていただきます。

・枚数制限: 1度のお申し込みにつき、4枚までとさせて頂きます。
・複数枚ご購入頂きました場合のお振込みは、一度にお済ませ下さい。

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ヨルガワンマンライブ「帝都復興機関詞」

「帝都復興機関詞」

出演:みとせのりこ(Vocal)
弘田佳孝(Bass)

壷井彰久(Violin)
四月朔日義昭(Guitar)
小谷竜一(Keybord)
諏訪昌孝(Drums)

とき:2011年1月15日(土)
開場 18:00
開演 19:00

ところ:渋谷DESEO
〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町3-3 第二岡崎ビル1F
Tel:03-5457-0303

Charge
座席チケット ¥4800(ドリンク代込)
立見チケット ¥3500(ドリンク代込)

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・ご予約開始は2010年10月20日(水)午前0時から、メールでの受付となります。
・お申し込みのフォーマットは、10月18日頃に当サイトでお知らせいたします。

・ご予約開始の初日24時間につきましては、申し込み多数の場合抽選とさせて頂きます。
・ご予約開始の初日以降は、メールの到着順での受付となります。
・受付後、チケットが確保出来た方には「入金のご案内」メールをお送りいたします。(10月24日以降)
・振込先のご案内は、「入金のご案内」メールをご確認下さい。

・ご入金締め切りは11月15日(月)ご入金は銀行振込のみとさせて頂きます。
・11月15日(月)までにご入金が確認出来なかった場合はキャンセルとさせていただきます。
・お客様のご都合による入金後のキャンセルおよび払戻しはいたしません。
・入金時の手数料は、お客様のご負担とさせていただきます。

・枚数制限: 1度のお申し込みにつき、4枚までとさせて頂きます。
・複数枚ご購入頂きました場合のお振込みは、一度にお済ませ下さい。

お問い合わせフォームはこちら
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ヨルガ朗読会「睡晶幻燈夜会」満員御礼

お客様各位

此の度の『睡晶幻燈夜会』に於きましては、皆様方御多忙中にも関わらず、会場となりました浅草橋パラボリカ・ビスへお越し頂きまして、厚く御礼申し上げます。おかげさまで満席を賜り、また好評のうちに閉会する事が出来ました。

此の度の夜会で、皆様に直接御会い出来、また御話出来たことに関係者一同喜びを感じております。

最後になりますが、当夜会の成功に感謝し、満席でご来場頂けなかった皆様方にもその一部を垣間見て頂きたく、朗読されました作品のひとつ『兄様の指輪』を「ヨルガ文庫」コーナーに文章にて公開致しました。御一読下されば有り難く存じます。

御来場、誠に有り難う御座いました。 弘田佳孝

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「睡晶幻燈夜会」

演目<プログラム>

・序曲:弘田佳孝

・朗読会

一、『兄様の指輪』  のばらひな著

――兄様は何時、気が付かれたのでしょうか。私が、兄様の外套のポケットにあった指輪を盗んだことに。
理由も言わず家を出た兄が残した指輪に纏わる過去と、夜毎に視せる夢と幻想が織り成す小編。

朗読 みとせ のりこ
音響 弘田 佳孝
監修 のばら ひな

おしまいの曲「夢ヲ買イマス」

ニ、『シュガープラム、コンフェイト』  みとせのりこ著

その日は朝からなんとなく不思議な日だった。朝起きて、外に出たときから、いつもより大気が綺羅々々と偏光して視えるような、シャツの袖を過ぎる風の手触りもどことなく違うような、そんな気がする日だった。
ポストマンの少年が視たある日の風景と、差出人のない「手紙」たちの物語。

朗読 みとせ のりこ
音響 弘田 佳孝
監修 弘田 佳孝

・小演奏会

三、『小さい秋に寄せる三葉の詞、或いは泡沫の夢』

1.ヨルガ<睡晶>
2.小さい秋みつけた
3.珠ノ舟
En.狐―キツネツキー月

唄い手:みとせのりこ
ベース:弘田佳孝
ギター:太田光宏

※終演後、夜会参加者の中からお二方に今回の短編二編に因んだお品をプレゼント致しました。

ひとつは『兄様の指輪』のモチーフになったリング。Silver925製。ロケットになっていて、蓋が開きます。「ポイゾンリング」という名前で売られている曰くありげなシロモノです。

niisama_no_yubiwa

もうひとつは『シュガープラム、コンフェイト』の、ポストマンの少年が配達している手紙=薄荷の香りがする擬似結晶、通称「グラス」。作中に登場した三つ星マークの舶来燐寸の箱に入れて。

【ヨルガ文庫】兄様の指輪

1

薄曇の空からしんしんと雪が降りがはじめました。
兄様と遠い昔に過ごしたこの小さな枯園は物音ひとつなく、すべてが凍ったよう。
お元気でお過ごしなのでしょうか。
兄様とお逢いできなくなってから、もうどれくらいの時間がたったのでしょう。
私などでは読むことさえ出来ない難しい御本を何冊も束ねて荷造りしていた兄様の背中を、もう何度、思い出したかわかりません。
お手伝い、しましょうかと聞く私に、「指が傷むからいいよ」と言った兄様は、すべておひとりで荷物をおまとめになって、綿雪が降る凍える朝に、お迎えにいらしたつやつやと光る真っ黒な車に乗って、行ってしまわれましたね。
その日を境に、家の者は誰も兄様の話をしなくなりましたわ。
…はじめから娘の私しか、いなかったかのように。
残された兄様の部屋には、がらんどうの本棚や皺ひとつない寝台…もう灯りを燈す事のないランプだけ。
御姿をこんなにも鮮やかに思い出せるのに、目の前にある何もない部屋でひとり佇まねばならなかった私を、兄様はお考えになった事があるのでしょうか。
刃のように迫ってくる寂しさに耐えられず、何度も兄様の机に寄り添って、引き出しをひとつ、またひとつと開けました。
もちろん、そこにはちいさな傷も、インクの染みさえもありません。
もう此処にはいらっしゃらないのだという事実に震えながら、
兄様だけが足りないあの部屋で、おそるおそる握り締めた指輪を見つめました。

…兄様は何時、気が付かれたのでしょうか。
兄様の外套のポケットにあった指輪を私が盗んだことに。
あの日、市松模様のタイルが敷き詰められた玄関で、いつお帰りになるの、と聞いても兄様は答えてくださいませんでした。
この外套を渡してしまったら、兄様は本当に行ってしまう。
そう思いながら、兄様の外套を抱きしめて、立ちすくむしかありませんでした。
その時のことです。
何か小さな物がポケットに入っているのに気が付いたのは。
私は、思わずそっと手を入れて、兄様に気付かれないようにそれを抜き取りました。
靴紐を結び終えた兄様は、お渡しした外套を羽織り、私の額を優しく撫でると行ってしまわれた。
…手のひらに隠した指輪だけを残して。
黒い緩やかな曲線を描いた外套の裾がゆらりゆらりと揺れて、微かに積もった雪に兄様の足跡だけが残っていましたわ。
今でもどうして指輪を盗んでしまったのか、私自身、よくわかりませんの。
ただ、真っ白な雪を灰色に潰しながらやってきたあの車を見た時に、もう、兄様にお会いできないのではないかと思ったからかもしれません。

指輪には、蔦が巻きついた繊細な細工が施され、
深い碧の葉の上に乗っている雨粒ような小さな石がはまっていました。
その石は、今まで私が見たことがない程に美しく、そして儚げで…。

どうして兄様は、この指輪をお持ちだったのだろう。
そう思いながら、兄様の指輪をそっと自分の薬指にはめてみると、まるで、もう随分前から私の指の一部分だったかのよう。
不思議ですけれど、一分の余りもありません。
薬指にある兄様の指輪がきらりきらりと光る度に、兄様がお傍にいらっしゃるように感じたのは私の甘えでしょうか。
私は願いを掛けて、いつか兄様が戻られる日まで、この指輪を外さぬ事を決めました。

2

兄様の夢を見るようになったのは、その晩からのこと。
最初に見た夢は、兄様の部屋の扉を静かに叩くところから始まったのを覚えています。
奥から「入っていいよ」と兄様の声がして、私は静かに扉を開けました。
机に向かって万年筆を持つ兄様がこちらを向いて、ありがとう、と一言私に言うのです。
すると私は手に持っていた本をそっと机に置くのでした。
兄様はもう、振り返る事なく机に向かっていらっしゃいます。
後ろ髪をひかれながらも、そっと兄様の部屋を後にしようとした時、目が覚めたのです。
窓の外を見ると、まだ月が高く上っています。
私、すべてが夢だったことがあまりに悲しくて泣いてしまいましたのよ。
指輪を盗んだ罪の意識から、こんなにも鮮やかに兄様の夢を見たのだろうと最初は思いましたけれど、次の日も、その次の日も、兄様は私の夢に現れました。

そして、気が付いたのです。
兄様の指輪が夢を見せている事に。
夢から覚めると、真夜中の暗闇に、必ず薬指の上でそれは幻灯機のように切なげに光っていましたの。
躊躇いながらも兄様の指輪を唇によせると、ゆらゆらと淡く柔らかな光が私の顔を照らしているのがわかり、兄様が私のことを遠い何処かで想っていてくださっているような気がして、私はゆっくり瞳をとじましたわ。
…兄様に祈るように。

それから何度、兄様の夢を見たことでしょう。
御学友と勉学に励まれる兄様にお声をかける夢、竹刀を持つ黒い袴姿の兄様を影からそっと見守る夢、詰襟の制服を身にまとい角帽をかぶられた凛々しい兄様をお見送りする夢。
あまりに夢が鮮明なので、目が覚めて朝鳴く鳥達の声を聴いても、いつしかこれも夢なのではないかしらと思うようになりましたわ。
夢というにはあまりにも確かに、そこに兄様がいらっしゃる。
兄様にお逢いできるのが本当に嬉しくて、眠るのを心待ちにするようになりました。

ですが不思議なことに、夢の中の私はいつも人目ばかりを気にして兄様に話しかけているのです。
まるで、兄様とお話するのを誰かに禁じられているよう。
そわそわと落ち着きがありません。
兄様はそんな私をいつも気にかけて、事あるごとに私にお声をかけてくださいます。
そう…ある時は小さな紋白蝶をそっと私に見せてくださいましたね。
紋白蝶は兄様の手のひらから柔らかく飛び立つと、私のまわりをひらひらと舞いました。
振りかえると兄様が私を見つめていてくださっている…。
夢の中で、私には兄様がいると強く感じたのを覚えています。

3

でも。
忘れる事ができないあの夢。
あの夢から、何故かすべての歯車が違う方へ回ってゆきました。
兄様はいつもと同じように、私を呼び出したのです。
誰にも気がつかれないように。
兄様は色とりどりの鉱石図が描かれた本を開いて私に見せてくださいました。
隅々まで描写された鉱石がどの頁をめくっても輝いています。
ゆっくりと紙面をめくる兄様の指が優しくて、私は様々な鉱石よりも、兄様の白い爪ばかりを追っていましたわ。
湖の底のような深い碧色の鉱石を綺麗と言って見つめていると、兄様は
「…でも、碧は毒の色だ」と言うのです。
思わず私は兄様を見つめ返しました。
曇り顔をされた兄様の横顔は芙蓉のように美しく、小さく震える睫は羽化する事のない蝶の羽のよう。
現実では見せてくださった事のないお顔でした。

その時、扉の開く音がして振り返ると、母様が立っていらっしゃったのです。
見たこともないような怖いお顔をされていましたわ。
夢とわかっていても、あまりの母様の形相に私は動くことが出来ません。
母様はなにも言わずゆっくりと近づいて、そして、私の頬を叩いたのです。
叩かれた頬が熱く痛む中、驚きと悲しさで母様を見ると、「そんな目で私を見ないで頂戴。その目はあの女を思い出して吐気がするわ」と氷のような冷たい目で私に言い放ちました。

あまりの悪夢に私はどうしたらこの夢から目覚められるのだろうと思った程。
いつも私を優しく抱きしめてくださる母様が、夢の中では般若のようでした。
兄様はただ、なす術もなく、母様に連れられてそのまま部屋を出て行かれましたね。
床には先程まで兄様が見せてくださった鉱石図だけが残されて、毒の色をした鉱石が私を見つめていました。

そのまま、私はぼろぼろの皮製のトランクに、少しばかりの服を詰めて家を出るのです。
ふと壁にある小さな鏡を見ると、夢の中の私の薄い唇だけが見えました。
その唇は、「これでいいの」と声なくゆっくりと動き、硝子のように透明な涙が頬をつたいます。
重い扉を開けると、一面に雪が降り積もっていましたわ。
私はひとり振りかえる事なく、ただ、真っ直ぐに歩いてゆくのです。
目の前のすべてが白い視界だけを見つめて。

4

その悪夢の夜から、毎晩見ていた夢がふつりと途切れて、音だけがきこえる事が多くなりましたの。
見えるのは漆喰のような真っ白な壁と、音だけです。
まるであの雪景色のよう。
かつんかつんと響く様々な靴音やがらがらと何か荷台のようなものが私の耳元までやって来る音、そして…聞き覚えのある声で静かに言い争いをする大人達の話し声。
何日もその白い夢は続き、もう兄様は私の夢に現れては下さらないのかと焦りましたわ。
そして、夢の中で、何故か私は横たわったまま、人形のようにひとりでは動けなくなったのです。
窓から入ってくる風や冷たいシーツの肌触りを俄かに感じて、そこでやっと、夢の中の私は眠っているのだと気が付きました。
眠りながら眠り続ける夢を見ているという奇妙さから、どうしても抜け出したかった私は、兄様、兄様と声にならない不自由さの中、叫び続けました。
あんなにも強く兄様を求めたことはありません。

その時、懐かしい兄様のお声だけが天から降り注ぐように私に話しかけました。
久しぶりに聞くそのお声は、まるで闇に差す一条の光のよう。
私は、本当に嬉しかった。
ですが、それは初めて聞く兄様の懇願するお声だったのです。

「…帝都中を駈けずり回ってやっと見つけ出せた。巡り巡ってこんな形になっていたよ。
これさえ戻れば、意識が戻るかもしれないだろう」

兄様の体温を感じる温かい指がそっと手を握り、私の指に何かをはめたのがわかります。

「早く、一刻も早く目を覚ましておくれ。…頼むから僕を置いていかないでくれ。お願いだ」

そう言った後、小さな嗚咽が聞こえ、兄様が動く事の出来ない私の身体をきつく抱きしめるのがわかりました。

5

目が覚めたその時程、夢の中の自分に嫉妬を感じた事はありません。
大事で仕方がなかった兄様の指輪が、何か言いたげともとれるように淡く微かに光るのを見て恐ろしくなりました。
この夢は誰の夢なのでしょう。
兄様が置いていかないでくれと懇願している…全く考えつかないのです。
指輪の石が、夢で頬を流れた涙のように思えて仕方がありません。
恐怖のあまり、外さないと心に決めていた指輪をゆっくりと外しました。
すると、私の指には、消えないと思う程にくっきりと紅く痕が付いていましたの。

このままでは、指輪に…この誰かの夢に取り込まれてしまうのではないかと、その時初めて気が付いたのです。
私は外した指輪をレースのハンカチに包み、震え怯えながら夜が明けるのを待ちました。
ずっと夢が見らればいいと思っていた時は、あんなにも短く感じた闇が、この時ばかりは終わりがないように感じましたわ。
日が昇り、外が明るくなって、窓から柔らかい朝日がこぼれても、兄様の指輪は弱弱しくではありますが、まだ微かに光を放っています。
…夢は終らないのだとでも言いたげに。
朝露が消え、街の喧噪が聞こえ始める頃、私はハンカチに包んだままの兄様の指輪をおそるおそる鞄に忍ばせて家を出ました。

6

通りですれ違う人たちをよけながら兄様を想いました。
幼い時から、私を慈しんでくださった大事な兄様…
この指輪を荷物にしまわず、外套のポケットに入れていた兄様は、私のあずかり知らぬどんな秘密をお持ちだったのでしょうか。
行き着くあても無いまま、帝都中を彷徨いました。
女学校の隣の公園にある大きな噴水にこの指輪を沈めてしまおうかとも考えましたわ。
けれども、兄様の事を想うと切なくてできません。
第六区まで行き着いて、店が立ち並び様々な物が売られているざわめきの中を何時間もひとり歩きまわるばかりでした。

気が付くと、陽が翳り始めた小さな路地の奥、骨董屋の軒先に「ユメ買イマス」という看板が揺れていました。
ユメという言葉に思わずすい込まれるように扉に手をのばしてしまったのです。
薄暗い店内の硝子ケェスに、時間(とき)に愛された物たちが並び、先程までの喧噪は嘘のように静か。
奥から出てきた黒眼鏡をかけた店主は、私を見て「何かをお探しですか」と声をかけてくださいました。
…長い髪をひとつに束ね、お顔の色がまるで白磁ようだったのを覚えていますわ。
思わず私は、買い取っていただきたいものがありますの、とハンカチに包んだままの指輪を微かに震えながら渡しました。
どうしてそんなことを言ってしまったのでしょう…。
ですが、そうすることでしか、この気持ちを落ち着かせる事は出来ないと思ったのです。

店主は、「拝見させていただきますね」と包みを開くと、
「職人でしか作れない繊細な細工のお品物ですね」
と優しく落ち着いた口調で喋りました。
ですが、店主は指輪をルーペで覗き込みながら、思いもよらないことを私に問うたのです。

「お客様、証紙と写真は一緒に保管してございませんでしたか?」

言われた言葉の意味がわからず、 店主を見つめ返しました。
兄様の署名が必要なのでしょうか…。
盗んだ物とは恥ずかしくて言えずに口ごもる私に、店主は顎を触りながら、

「証紙と写真は失われてしまっている…ではお函もございませんでしょうねえ」と独り言のように呟きました。

こんなにも指輪の出所を店主に追求されるとは思いもよらなかったのです。
羞恥心に、私は口をきつく結んで立ち尽くしましたわ。

ルーペを覗き込んでいた店主は、包んであったハンカチの上に丁寧に指輪を戻しました。
やはり私は、この指輪から逃れることができないのだわ。
そう思った時でした。

「お客様、この指輪に据えてある『これ』は、証紙も写真も失われているようですが、確かに当店がお取り扱いしたもので御座います。慎ましやかな品の良いユメをお持ちですね」

と店主が私を見つめて言ったのです。
私は本当に驚いて、思わず、声を上げしまいましたわ。すると、

「ご存知なく、こちらにお持ち頂いたのですか?それは奇遇でございますね」

と店主は、ゆっくり笑って十露盤をはじきました。
ユメという言葉を反芻しながら、私は兄様の指輪をじっと見つめる事しかできません。
指輪は淡く光ることなく、何事もなかったよう。
もしかしたら、この店主なら兄様の夢をみるからくりをご存知かもしれないと、指輪のそれはなんですの?とおそるおそる尋ねました。
すると店主は、十露盤から目を外して私を見ると、信じがたいことを話し始めたのです。

「どの位前か忘れてしまいましたが、これはある少女のユメで御座います。歳は十五を超えていなかったでしょうか」
と目を細め、そして、

「そういえば、ユメをお買取させて頂いてから暫くして、探しにいらした青年の御客様もいらっしゃいましたね。
確か…妹の夢を取り戻したいのだとおっしゃいまして。すでに他のお客様にお買い上げ頂いていたものですから。
ですが、まさか指輪になっていたとは。…またご来店下さればいいのですが」と。

その時、私はきっと小さく震えたことでしょう。
やはりもう少し考えさせていただきたいの、と店主の手元にある指輪を掴み取り、早足で骨董屋から逃げ去ろうとする事しかできませんでしたわ。
これも夢であるならば、早く目が覚めてほしいと思いながら。
店の奥で「またのご来店をお待ちしております。ご縁がありますように」とぼそりと言う店主の声が聞こえました。
私のあまりに青ざめた表情を見て、きっと不思議に思われた事でしょう。

7

帰り道、かたかたと震える肩を誰にも気がつかれぬよう、俯いたままのびる影を見つめるしかなかった私を兄様は想像できるでしょうか。
この指輪を盗まなければ知りえなかったであろう兄様の秘密が私に重くのしかかってきました。
私は兄様の何を見ていたのでしょう。
あんなにお優しかった私の知っている兄様がもうあまりに遠いのです。

…日が暮れて、月が昇り始めると指輪はまた、兄様を求めるように光り始めましたわ。
あの時程、兄様の腕の中で泣きながら夢を見ずに眠りたいと思ったことはありません。
淡く光る指輪を手に取ると、まだ薄く赤い痕が残る私の薬指にゆっくりと指輪を戻しました。
もう、これ以上、私の兄様を失いたくなかったのです。

私を取り囲む闇は、蒼く、深く、そして終わりなく…。
物音ひとつしない部屋の中で、兄様の指輪の灯火がゆらゆらとした光を天井に映します。
止まらない涙を拭く事も出来ません。
冷えた頬をつたう涙が、ぽたりと兄様の指輪に落ちました。

何故か、何かに呼ばれたような気がして振り返ると、
兄様が「毒の色だ」と仰った、もうある筈のない本が開かれたまま、床に置かれていています。
あの悪夢の時と全く同じように。

…どうして兄様の御本がここにあるのでしょう。
私はまた、夢を見ているのでしょうか。
いいえ、薬指にはいつものように指輪があります。
夢から目覚めた時のように淡く輝いていますもの。
もう、夢なのか現実なのか、そんな事も私にはわからなくなってしまったのでしょうか。
迷路に迷い込んでしまったような恐ろしさに、私は一歩も動く事ができません。

開いたままの窓から入る夜風に、白いカーテンがゆれました。
窓の外を見ると、あったはずの月も星もなく、どこまでが空なのかわからない程の暗闇です。
…ただひとつ、いつのまにか降り始めた雪の白さだけが、光のように明るくて。
さす様な冷たい風に、本の頁がぱらぱらとめくれると、様々な鉱石が風にゆれました。
ふと、淡い櫻色の鉱石図が描かれた頁の間から、一枚の写真がこぼれ落ちたのです。
思わず、私は駆け寄って、その写真を拾いました。
…その写真には、幼い兄様が写っていました。
見たことのないご婦人の足元に無邪気にすがりつきながら、こちらを見つめる可愛らしい兄様…。
その兄様に向かって、言葉では言い表せない程、優しそうな笑みを浮かべるそのご婦人は、
生まれたばかりであろう赤子を大事そうに抱きしめています。
角が丸くなって、古びているセピア色の小さな写真の裏側に、子供の字で書かれた兄様の名前と…もうひとつ、名前が並んでいましたわ。
でも、それは私の名前ではありませんでしたの。

兄様、もし…、私がユメを売ったら、見つけ出してくださいますか。
帝都中を駆け巡りながら、息をきらして、探してはくださるのでしょうか。
指輪の淡い光で写真を見つめていると、ふとそんな事を思いました。
ユメでみた兄様は濁った湖の深い闇のような目をされていた。
兄様が家を出られた理由が、その眼球に秘められていましたのね。

…明日、私はこの指輪を持って参ります。
もう決めましたの。
あの薄暗い骨董屋の店内で、兄様がこの指輪を見つけられる事はあるのでしょうか。

何時の日か、私に兄様がいた事を、誰も知らなくなる日がやってくるのでしょう。
誰ひとりとして、兄様の名を呼ばず、求めず、兄様を想わなくなるのです。
はじめから存在していなかったように。

その時、兄様のことを覚えているのは、ただひとり、私だけですわ。
…兄様どうか、お元気で。

(初出 2010年10月10日 睡晶幻燈夜会 朗読作品)

ヨルガ朗読会+ミニライヴ「睡晶幻燈夜会」チケット予約満了いたしました

10月10日、パラボリカ・ビスにて行われる、ヨルガ朗読会+ミニライヴ「睡晶幻燈夜会」チケット予約が満了いたしました

多数のご予約、誠にありがとうございました。

当日券はございませんので、ご了承くださいませ。

※入場は整理番号順です。
※整理番号の付与順は、パラボリカ・ビスにてチケットを引き換えた順番になります。チケットの引き換えは10月8日より会場にて。ギャラリーの入場チケットも兼ねておりますので、早めに着いた方はギャラリーやカフェも是非楽しんで下さい。

ヨルガ朗読会+ミニライヴ「睡晶幻燈夜会」

ヨルガ朗読会+ミニライヴ「睡晶幻燈夜会」

ヨルガ朗読会+ミニライヴ「睡晶幻燈夜会」

出演:
みとせのりこ(唄、朗読)
弘田佳孝(Bass、音響)
ゲスト:
太田光宏(Guitar)

とき: 2010年10月10日(日曜) open /19:00 start/19:30
ところ: parabolica- bis[パラボリカ・ビス]
東京都台東区柳橋2-18-11 TEL : 03・5835・1180

Ticket

前売り\2500 当日\3000
※定員50名(全席着席、指定ナシ)

予約・お問い合せ:パラボリカ・ビス(会期中は水曜休館)
tel:03・5835・1180
メールでのご予約はこちらから

※ご予約は先着順50名様までで締め切られます。
※入場は整理番号順です。
※整理番号の付与順は、パラボリカ・ビスにてチケットを引き換えた順番になります。チケットの引き換えは10月8日より会場にて。ギャラリーの入場チケットも兼ねておりますので、早めに着いた方はギャラリーやカフェも是非楽しんで下さい。

【ヨルガ通信】ヨルガ文庫「或る遊女の話」 WEBラジオ朗読


再生ボタンが表示されない方はこちらから

朗読:みとせのりこ
音:弘田佳孝

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「或る遊女の話」

わっちの生まれた里は、海と山とに挟まれた猫の額のような狭い村で、おまけに土地の痩せた貧しい寒いくにでありんした。わっちの家はそんな村の中でもまァまた貧しくて、上に姉が一人、わっちの下には弟が二人おりんしたが、下の弟は水害による飢饉のときに死んでしまいんした。わっちがその折十にひとっつ足らなくて、父(てて)親は外へ働きに出たっきり帰らず、もう3年は経っておりんしたねえ。いちばん上の姉と母とで他家(よそ)様の仕事を手伝って、それでもらった糧で細々と家族5人、空き腹寄せ合って兎小屋のような家にしがみつくように暮らす毎日でおざりいした。
わっちは母に似たおかげでこォんな田舎くさい顔貌ですけど、姉はわっちと全然似ていなくて、ほんとに美しい人でございましてねえ…え?おまえさんが田舎くさいというなら、姉御様は天女のような人だったろうって?真にお上手でおざりいすなあ、主様は。そう、でも姉は真に、つぎあてだらけの木綿の着物を着ていても、何というのでしょうね、凛として清しい美しさのある…姉でありんすか?今?
姉はもうこの世にはありいせん。カジンハクメイ?どこのおくにの言葉でありんすか?へえ、綺麗な人は儚く早死にするもの、ねえ…さすがものかきの先生はいろんなことご存知でおざりいすなあ。でも、姉は亡くなった…というのも違うような、どう申せばいいんでしょうねえ。

そう、姉は。
水神様に嫁いだのでございますよ。

*
ひどい水害の年でございました。頃は秋も終わりでしたか、空は荒れ、海波は猛り、畑にも出られぬ、猟にも出られぬ、舟で海にも出られぬ中で、山土は水を含んで崩れ、海からは波の壁が時折押し寄せる。山と海とに挟まれた痩せた貧しい小さな村、そんな日々に長く耐えられようはずがありません。人は餓え、水に土に脚をとられてずいぶん亡くなりました。
それでも一向止まぬ水の猛威に、これは水神様のお怒りかとみんな怯えましてね、それで、まァ、神様のお怒りを鎮めるために誰か遣わそうと、そういう話にね、自然なりました。誰を水神様へ遣るのかと、そういう話を大人たちがしているときに、あたしの家の前の椿の木に、時ならぬ紅い花が咲きました。それを見た大人たちは、これは水神様の与えた徴だとそう言いましてね、正直理由なんて何でもよかったんでしょうねぇ、ただうちは貧しくて里の家々に仕事もらっておこぼれで暮らしていたようなもんですから、そう言われちゃァ逆らいようもありません。うちから遣いを出すことに決まりました。

そして雨の泥濘の中、夜の足元も覚束ぬというのに、家には急ぎ村長と土地神様を祀る社の宮司がやって参りました。狭い家の上座に姉を座らせて、長に宮司、母と、日ごろならありえぬ下座から囲んで姉を見上げております。
最早一刻の猶予もならぬ、心を決めてくれぬかと、重苦しいような、それでいて急かすような調子の声が聞こえます。おまえの母や妹弟のことは、末まで村で助けてゆくで心配するでない、とそのように村長が申しますのを、あたしは土間の戸口の筵の陰で息を潜め、そっと聞き耳立てておりました。

実はその折、姉には不釣合いな縁談が持ち込まれておりました。母と姉ふたりしてよく届け物をしておりました隣里の富裕な家から、姉を迎えたいと言われていたのでございます。縁談といっても内々のもの、要するに姉は妾に望まれたのでございますよ。相手は五十に手の届く歳の男でございましたが、母はそれでもこの貧しい里で暮らすよりは、ましてや生贄になるよりはと思ったのでございましょう、姉に必死に縁談の方を勧めたのでございますが、姉は何故か杳として首を縦には振りませんでした。

大人三人下座に置いて、脚を正したまま姉は黙って端座しておりましたが、大人たちの話が途切れると一間を空けて口を開きました。
「富裕な里の資産ある家、その殿方に嫁ぐといっても、それは結局身売りをせよと言うのでございましょう。その家その里の富、そして人の情など、我が身でいつまで購えるものか、末の量れぬ不確かなものでございます。」
「ならばわたしは今この里に威をもて居わす水神様の元へ嫁ぎとうございます。同じ身を売るならばヒトよりも、神にこの身を捧げましょう。その方が村のためにも、親妹弟のためにもなるのではありますまいか。」
姉は水鏡のような声でそう言うと、両の指を膝の前に揃え、静かに頭を垂れました。

「わたくしを、どうぞ水神様の元へお遣りになって下さいまし。」

よう言うてくれたと、村長の爺は感じ入った様子でそう言って、傍らの母にまこと孝行な娘ぞと大きく声をかけました。母はただ俯いて姉の前に手をつき深く、深く頭を下げました。筵の陰から盗み視た母のその肩は震えていましたが、姉は毅然と顔を上げたまま、何を視ているものか全くわかりませんでした。村長を送り出しに母が立ち、姉もそれに続き、あたしは慌てて戸口から退きました。とはいっても小さな小屋、退いたところで他のどこへゆくような部屋もありません。母はただ顔を伏せ息を詰めて長の背に続いておりましたが、姉だけは戸口の横で所在無く佇んでいるあたしに気づきました。姉はあたしをみとめると、あたしの方へ手を伸ばし、笑いかけるようなそぶりをみせました。
「--ちゃん、堪忍ね。」
笑うでもなく泣くでもなく形容のし難い顔をして、そう言いながら姉があたしの髪を撫でたときの、その黒い目の不思議な光を、あたしは生涯忘れることは出来ないでしょう。

そうと決まれば支度は鞠の石段を転がるように進んでゆきました。あまりの手速さにあたしは右往左往するばかり、姉は多くの人に取り囲まれて、我が家の者は蚊帳の外に置かれたように少し離れてそれを見ているしかありませんでした。
あたしは愈々姉が禊に、着替えに向かうと家を発つ段になってもどう声を掛けていいかわからず、おろおろと後ろをついて歩き出しましたが、ふと見遣った窓の外、目についたただ一輪の紅い花、思わずその木の元へ雨の中走り寄り、細い枝を手折ると、姉の背を追ってそれを差し出しました。姉は振り返ってずぶ濡れのあたしの手からその花枝を受け取ると、黙ってにこりと微笑みました。
それが間近で見た姉の最後の顔でございました。

*
そうやってあたしの姉は、十と五つで白絹の花嫁衣裳に包まれ、瑠璃翡翠で飾り立てられた小さな舟に乗せられて、水に流されていきました。あれほど荒れ狂って里を悩ませた荒天が、姉の祝言の夜だけは嘘のように凪いで、夜空にはまるで天人の宝珠の箱を覆したような、満天の星が煌いておりました。水辺に点した篝火の間を縫って、宮司に手をとられ、筵の道を小さな舟まで歩む姉の姿を、あたしは今でも今日のことのように思い出せます。

それはそれは美しい、この世のものとは思われぬ程美しい花嫁姿でございました。この里のどこにこのような贅沢な衣があったものか、真新しい綸子の紋意匠に紅絹裏つけた三尺の長い長い袖振りからは、やはり絹の襦袢が零れておりました。帯の胸元に差した懐剣には白と赤の長い房が揺れ、ふき綿も豊かな重い裾引いて、淡く紅を刷いた白皙の貌に黒髪結った、あたしの姉はまるで水晶か真珠<しらたま>の雫のように、恐ろしいほど静謐に佇んでおりました。嗚呼もう姉はヒトではなくて水神様の伴侶、神の眷属なのだと、あたしは幼い心に遠く誇らしく、そして淋しく姉を感じたのでございました。

けれどどんなに飾り立てても所詮は捨小舟。死出の道行きでございます。
あたしはその舟の、煌びやかなる珠の光、花を模った燈籠の灯りの最後のひとつが遠く波間へ消えるのを見て、初めてそのことに気づいたんでございます。周りを見れば村の人たちは、有り難い有り難いと手を合わせ感謝したその口元にその頬に、自分は難を免れた、そんな安堵を貼り付けていたのでございます。そう、母ですらも深い悲しみといたたまれぬほどの詫びの影に、そのような色をごく僅か、浮かべていたように見えました。
あたしは急に恐ろしくなって、下の弟の手を強く握りました。何にもわからない顔した弟が、「ねえちゃん、いつ帰ってくるの」とあたしに問うのを聴きまして、あたしは子供心に涙を流さぬよう必死で堪えながら、ただ弟の頭を撫でたのでございました。

*
まァ、そんなこともありんしてね。
いろんなことが厭になって、わっちは自分でここへ売られてきたんでおざります。

母は翌年体を壊して帰らぬ人になっちまって、あたしと弟は村を救った生き神様の身内ということで無碍にもできなかったんでしょう、村の家に交代で世話になって育ててもらってはおりんしたけど、なんとも肩身の狭いものでおざりいした。
弟には画の才能が見えんしたので、絵の師匠の元へ弟子入りさせようと思いましてね、それには何かと物要りでおざりましょう、それで。
ここ、吉原に。

ああ、せいせいしいした。わっちにはしょっぱい里の暮らしより、ここ帝都の、花街の暮らしが肌にあっておりんす。同じ籠なら自分の選んだ籠の方が、居心地がいいというものでおざりましょう。

え?
何故そのときわっちが選ばれなかったか?
それはそのときわっちがまだ娘ではなく、子供だったからでありんすよ。
水神様もそんなことで選好みなさるあたり、男のおひとでおざりぃすなあ。

あら、その通りだと仰せになる。主様はずいぶん正直なお方でありんすなあ。
さあさ、話ばかりも野暮というものでおざりましょう。まずはゆるりと一服しなんして。
今度会ったら続きを聞かせて欲しいと? ふふ、さァて、今度話すときァ弟が妹になったり、お里が南のくにになったりするかもしれませんえ。

その話も是非聞きたい?
真に変わったお客さんだこと。主様は人好しでありんすなあ。…でも。

「わっちはそういうお方が、大好きでありんすよ。」

【楽曲解説】12_ヨルガ

このアルバムの中で一番最初に原型ができあがっていた曲。ヨルガ、睡晶という、帝都を支えるエネルギー源といわれるこの鉱石、通常のエネルギー保存の法則を無視するほどの力を秘めた「睡晶」とは、一体何の結晶なのか。1曲目の「セカイは僕の睛の中の映画」が帝都の地上や風景を描いた表テーマだとすれば、この「ヨルガ」は地下、深い鉱脈と形而上的な何か、世界の裏面をあらわすグランドテーマと言えるでしょう。採掘後の地下坑路に水が滴るような深いリバーブとみとせのりこの声質をそのまま活かした硬質なヴォーカル、世界の深淵にまさしくスイショウのように響く曲です。(みとせ)

どんなプロジェクトにおいても、最初に作る曲というのはその後に作る曲の流れを決めてしまうことがあるので、とても気を使うものですが、今作はみとせさんの歌声という揺るぎない大きな存在がありましたので、まずは声を存分に生かしたメロディを、そして既に明確だった世界観の中で、ヨルガという鉱石に相応しい曲を、ということで、漠然と作り始めるのではなく、明確なイメージで作り始めることが出来ました。ピアノとハープによるアルペジオ(分散和音)とその残響音が、睡晶の鉱脈を映し出します。(弘田)

【楽曲解説】11_U.M.T.(inst.)

インストの2曲についてはコンセプトだけは先に聞いていて(唄録り後の一杯を飲みながら…ただ飲んでるだけじゃなくてちゃんと打ち合わせも兼ねてるんですよ!!)、その際タイトルについて相談を受けたので、こんなのはどうだろう、という案を出しましたが、コーラスも入っていないこの曲についてはわたしは基本ノータッチ、弘田さんにお任せでした。もう1曲のインスト「curclation」はわたしの案ですが、この「U.M.T.」という暗号めいたタイトルは弘田さんがつけたもの。それぞれの文字が何の略なのかを考えると、ヨルガというものの本質が見えてくる、そんな気がします。(みとせ)

収録曲の中で一番最後に作った曲です。最初に作った「ヨルガ<睡晶>」のモチーフを使ったアレンジなのですが、ヨルガという鉱石のイメージを、短いながらも凝縮した曲が出来たかなと思っています。ピアノとハープにベースのハーモニクスが重なるシンプルな編成の曲。ハーモニクスとは、振動する弦の特定箇所に軽く触れて基音と幾つかの倍音を抑制する奏法です。チューニングする時などに使われますが、この曲のように音階を奏でることも可能です。(弘田)